御食つ国ー(淡路・黒岩)
車で明石海峡大橋を渡る。
橋のなかった頃とくらべ、あっけないくらい淡路は近くなった。
神戸淡路鳴門自動車道を、津名一宮で降りて左折し、大阪湾沿いの国道28号を南下。洲本の町に入ったあたり、見違えるばかりに再開発されて、かつての面影はない。レンガ造りの建物が散見されるあたりは、紡績工場の跡なのだろう。「御食(みけ)つ国」の文字を目にするが、今回は洲本は素通りして由良へ。目前の成ヶ島のすぐ向こうはもう紀淡海峡で、大阪湾の入り口になる。
「由良のとを 渡る舟人 かぢを絶え 行く方も知らぬ 恋の道かな(曾禰好忠、百人一首46)」の由良は丹後の由良ということになっている。しかし、「由良の門を渡る」という表現からは、この淡路の由良と考えても少しも不思議でない。
小さな峠を越えると明るい海が穏やかに広がっていた。左側に紀州、右側に阿波の山並みがかなりはっきりと見える。淡路の語源は「阿波+路(阿波へ行く道)」とされている。そして、われわれは自動的にこの道は、明石ー岩屋ー福良ー鳴門というルートだと思いこんでしまっているふしがある。だが、ここにきてみると、和泉経由のほうが自然だと思うようになる。紀貫之も土佐からの帰路は、この前を通り和泉に向かったはずだ。
海岸沿いの水仙ラインを一路、黒岩に向かう。道は広くないが対向車はほとんどないので、走りやすい。左前方に小さく見えていた沼島が近くに見えるようになって黒岩に着いた。
残念ながら、来るのが遅すぎたのか、早すぎたのか、水仙はポスターで見たほどには咲いていなかった。急斜面をつづら折れに登ったところに展望台があった。遠く和歌山のほうには部分的に雪雲がかかっていたが、ここから眺めた海や空は美しかった。振り返ってわずかに見える裏山の原生林もふくめて、本来自然の持つ清浄さや、その土地の持つ豊かさをあわせもった美しさだ。
まちがいなく、このあたりで獲れる鱧は、日本一美味であるといえる。
坂道を下りたあたりに、梅の小木が満開の花をつけていた。「行く方も知らぬ恋」をしている人は、ぜひ恋しい人とどうぞ。すっきりしますよ。
【福良・洲本からそれぞれバス2・3便(平日)】
【淡路交通 0799−22−3121】
- 「御食(みけ)つ国」は、天皇の食事(主に海産物か)を献上する国という意味です。
「朝なぎに 梶のおと聞こゆ 御食つ国 野島の海人の 船にしあるらし 巻六・934」
- 「由良のとを 渡る舟人 かぢを絶え 行く方も知らぬ 恋の道かな(曾禰好忠、百人一首46)」の由良は、作者の任地が丹後であったことから、丹後由良ということになっています。
- 「野島」を、ヌシマと読んで黒岩の南に浮かぶ「沼島」にあてようとすることがありますが、「野島」はノシマと読んで別の場所だと考えたほうがよいと思います。
- 「阿波路」を阿波へ行く道と考えないで、阿波そのものをさすという説もあります。つまり淡路は、阿波の一部であるということです。
- 黒岩の西方約8kmに阿万(和名抄に三原郡阿萬とある)があります。